忍者ブログ
忍たま乱太郎の5年生コンビを中心に取り扱った同人ブログです。最近は雷蔵がアイドル状態。 女性向け表現がありますので注意してください。
<<06   2024/07 1 2 3 4 5 67 8 9 10 11 12 1314 15 16 17 18 19 2021 22 23 24 25 26 2728 29 30 31   08>>


×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「雷蔵。」

「さぶろ・・・あっ。」

「惜しい、頭に留が欲しかったな。」

あけた襖にもたれながら留三郎が笑った。
雷蔵と留三郎の生活は何も問題なく続いていた。
留三郎は優しかったし、雷蔵をよく気遣ってくれた。

雷蔵は留三郎の厚意を嬉しく思いつつも、
申し訳なく思った。
どんなに良くしてくれても、心が晴れないのだ。

留三郎のことは嫌いじゃない。
しかし、好きかといわれればそうでもない。

そんな自分に尽くしてくれる留三郎。
考えれば考えるほど、胸が苦しくなる。

そんな雷蔵の気持ちを知ってか知らずか、
留三郎は雷蔵を後ろから優しく抱きしめる。

「雷蔵、ここの暮らしには慣れたか?」

「はい、よくしてくださって。ありがとうございます。」

「そうか、よかった。何かあったら俺に言ってくれ。
 出来る限りのことはしてやりたい。」

「はい、わかりました。」

雷蔵はゆるりと笑った。






三郎は一般の使用人と変わらぬ扱いを受けていた。
不破家にいた頃は、雷蔵の身代わり役というのもあって、
一般の使用人の地位(というのも変だが)よりも
もっといいものだったのだが。

「これでは雷蔵と顔を合わせられない。」

雷蔵に会いたいと三郎はため息をつく。
大きな門の前でこない敵襲を客人を待って一日が終わる。
何とつまらぬ毎日だろうかと、嘆いた。
自分はこんなことをするためにここに来たんじゃないのに。



そんなある日、三郎に転機が訪れる。

「じゃぁ俺と雷蔵はこの辺りを散歩してくるから。」

「いってらっしゃいませ。」

そう言って門をでる二人を見送る。
綺麗に着物を着た雷蔵が自分より随分と遠くに見えた。
雷蔵も久々の三郎を見て近寄ろうとしたが、
留三郎に肩を抱かれてそれは叶わなかった。

その時。

「!危ない雷蔵様、留三郎様!」

「な、何?!」

トトトッと足元の地面に手裏剣が刺さる。
三郎が後ろから二人を引っ張っていないと本人たちに刺さっていたそれ。
ほー・・・としりもちと小さなため息をついて、雷蔵が後ろを振り返る。

「ありがとう三郎、助かったよ。」

「いいえ、私は仕事を全うしたまで。」

「留三郎様ー雷蔵様ー!」

家の中から使用人たちが大勢駆けつける。
やれ怪我はないか、やれ気分は悪くないか、訊ねて訊ねて訊ねまくる。
しかも留三郎にばかりである。
やはり嫁といっても部外者だった雷蔵にはまだ人望はないようであった。
それを目の当たりにして少々落ち込んでいる雷蔵を
三郎は後ろから優しく抱きしめた。

「大丈夫、私がいるじゃないか。寂しくないよ。」

「・・・うん、でも三郎は最近僕の隣にいてくれないもん。
 寂しいよ・・・とっても寂しい・・・。」

二人の様子を使用人の頭の間から見ていた留三郎は目をきっと吊り上げる。
雷蔵と三郎は幼い頃からお互いを知っている良い親友なのは判っている。
しかし、こう穏やかな二人の雰囲気を見ると嫉妬心からか焼いてしまう。

「お前、雷蔵に何をしているんだ!離れろ!」

留三郎の怒鳴った声に使用人達もビクリと肩を跳ねさせる。
その間に使用人達の輪から抜けて雷蔵と三郎に近づいていく。
三郎はぱっと雷蔵を離して留三郎に頭を下げた。

「申し訳ございません、雷蔵様が怯えていらっしゃいましたので、
 宥め、慰めておりました。」

「そんなことは俺がする。必要以上に雷蔵に触れるな。」

留三郎の言葉に雷蔵が眉を寄せる。
悲しげな表情に三郎は反論をせずにはいられなかった。

「しかしながら、私は元々雷蔵様に使えていた身。
 雷蔵様の不安を取り除くことは私の役目でありました故・・・。」

「今は俺という夫がいる!本来ならお前は・・・!」

「留三郎殿!」

留三郎の言葉を遮るように雷蔵が呼ぶ。
着物の袖を引きながら留三郎の視線をこちらに向かせた。

「どうか三郎の無礼を許してあげてください。
 それに三郎がいなければ僕達は今頃着物を血で汚しています。
 手裏剣が飛んできたということは、まだ食満家と不破家の仲を
 壊そうとしている者がいるということです。
 
 それで今度からは三郎を僕達の側近兼護衛にすると言うのはどうでしょう?
 今回の三郎の行いを買って・・・ね、お願い、安心して貴方といたいんです。」

うぅ・・・と留三郎は唸ったが、しぶしぶコクリと首を縦に振った。
雷蔵はニッコリ笑って留三郎に礼をいい、三郎にも微笑んだ。

こうして雷蔵のおかげで三郎は雷蔵の側近となれたのである。





それから雷蔵と三郎はべったりになって、
夫の留三郎は全く面白くなかった。
雷蔵が街に行くといっては三郎も護衛と言ってついていき、
雷蔵が河へ水遊びに行くといっては三郎も護衛として・・・。

例えお家のため娶った嫁といっても、留三郎は雷蔵を愛していた。
素直で健気な雷蔵は、今まで付き合ってきたどの女よりも素晴らしい。

「・・・あの三郎とやら・・・どうにかならないか・・・。」

「留三郎様。・・・あの不破家から連れてきた使用人ですか?」

「あぁ・・・俺は雷蔵と一緒にいたい。だがあいつがいつも・・・」

はぁ・・・とため息をついた。
留三郎に向かい合わせで頭を下げていた側近は
主人の不満をどうにか解消したいと思った。
そうすれば自分の信頼と地位はもっと上がるはずだという
下心ももちろんあったわけで。

「では・・・留三郎様・・・私に考えがございます。」

どうかお耳を・・・と側近は留三郎に耳打ちをした。
それを聞いた留三郎は戸惑った表情をしたが

「留三郎様のご希望を叶える為・・・」

と諭され、首を縦にゆっくり振った。
その方法がどんなに卑劣かも考えず。




ある日三郎は調査を言い渡された。
食満家と不破家の仲を疎ましく思う者の目星がついたとのことで、
しかしそのまま制裁を行うのも証拠がない。
そこで忍びとして仕事ができる三郎に白羽の矢が立ったのである。

「事態が深刻なら証拠がつかめ次第つぶしてしまって構わない。
 頼んだぞ、三郎。」

「御意。」

そうして三郎は食満家を出た。
雷蔵は隣にいた三郎がいなくなって、寂しい思いをしていた。
そして久々に留三郎は雷蔵を抱き寄せる。

「三郎なら大丈夫だろう。お前の護衛だからな。」

「でも、留三郎殿、心配です。」

「大丈夫・・・な、雷蔵・・・今宵は・・・。」

夫婦といっても交わったことのなかった二人。
雷蔵はこれから行われる行為の重さが分からなかった。
だが着物を剥がれ、肌を合わせることが、こんなに。
こんなに不快なものとは、知らなかった。

留三郎殿が嫌いなわけじゃない。
留三郎殿も僕を愛してくれている。

最中ずっとそう思っているのに、浮かぶのは三郎の顔。
繋がったとき、零れた涙は。
それは、生理的なものでも、感動のものでもなかった気がする。





その頃三郎は。

「・・・初めから嵌めるつもりだったのか、あの食満の当主は。」

口元に内出血を作って縛られていた。

指定された屋敷に向かうと、そこは荒れた廃屋。
おかしいと思いつつも、雇われた野盗でもいるかもしれないと
中に入ったのがいけなかった。
無臭の極少量の毒霧だったため、防毒面をした頃には遅く、
濃度の高い毒霧に身体が痺れ出す。

そこに数人の食満家の使用人がきて三郎を殴って縛った。
普通の状態の三郎なら一瞬で殺せた一般の者。
そんなやつらに殴られる屈辱といったら。

「留三郎様はお前が嫌いらしくてな・・・嫁の雷蔵様が
 お前にとられてしまうのが気に食わないらしい。
 ・・・全く、お前といい留三郎様といい、あんな男女の
 何処がいいのか全く分からんが・・・」

「雷蔵を悪く言うな。殺すぞ。」

「縛られた状態のやつにすごまれてもなぁ・・・。」

くくっと笑う側近。

「そろそろ留三郎様に知らせが届く頃だ。」





控えめな灯篭が灯る褥。
そこで雷蔵の髪を愛おしそうに手櫛で梳く留三郎。
雷蔵は寝たふりをして、留三郎に背中を向けていた。

「留三郎様・・・。」

使用人がすっと現れて頭を下げる。

「三郎は・・・。」

「はい、上手く捕らえまして、いつでも・・・。」

「そうか・・・、じゃぁ・・・。」

「では、首はどうなさいますか?」

「・・・つけたまま、遺体と処分しろ。」

「どういうことですか?」

ムクリと雷蔵が身体を起こした。
眠っていると思っていた雷蔵がいきなり起き上がり
声を発したことで留三郎は心臓が口から出るかと思うほど驚いた。

それ自体に驚いたのではない。
この話を雷蔵が聞いていたということに驚き焦っていた。

「留三郎殿、三郎は刺客の調査に出たのではなかったのですか?」

「雷蔵、これは・・・!」

「留三郎殿・・・、見損ないました。」

「雷蔵!」

雷蔵の投げた着物はバサリと音を立てて留三郎の顔を覆った。
立ち上がり歩き出した雷蔵の顔は凛々しく、
軽い小袖に腕を通し、髪を結い上げると、
そのまま闇へと溶け込んでいってしまった。

留三郎は何も言えず、ただその姿を見つめるしかなかった。





「そろそろ留三郎様の命令を伝える者が来るだろう。
 今のうちにしっかり念仏でも唱えていろ。」

三郎を見下ろして醜く笑う。
三郎の身体の痺れはなくなってきていた。
後はどうスキをついてこいつらを討つか。

(まぁ、考えずとも殺すのは一瞬だが。)

憎たらしくも、自分を縛る縄はきつく固い。
縄抜けに慣れているといってもこれは難易度が高い。
関節をずらして爪に仕込んだ刃で少しずつ切るのが一番だと
先ほどから徐々に縄を削いでいるのだ。

(私が縄を切るのが先か、お前らが刀を抜くのが先か・・・。)

そうしていると伝令役が来た。
チッと三郎は舌打ちをして、爪に力をもっと込める。

「おぉ、来たか。して、留三郎様の命令は?
 やはり最初と変わらず殺すのだろう?」

「いや、殺すのは・・・」


バサリ、と頭巾を取ったかと思うと、
そこには三郎と同じ顔が現れる。

「なっ?!」

そんな状態に困惑してスキが出来たのを見逃さず、
雷蔵は側近の鳩尾に重い拳をくれてやる。

「お前達だ。」

雷蔵は冷たくそう言い放つと刀を抜いた。
雷蔵に向かってくる使用人を軽く切り、三郎の姿を確認する。

「三郎・・・!」

縛られた三郎を助けようと雷蔵が無防備に駆け出した。
相手は軽く刀傷を負っただけでまだまだ動ける。
そのスキを相手がつかぬはずがない。

「ダメだ!雷蔵、後ろ・・・!」

雷蔵に振り下ろされる拳よりも早く。
三郎は縄を掻き切った。

一瞬で抜かれた刀は相手の首元を切り
刃を血で滴らせる。
雷蔵はよろけて三郎の腕の中に収まる。

愛しい人のぬくもり。
何を犠牲にしても守らなければならないと思ったもの。

「雷蔵・・・!どうしてこんな危ないところへ・・・!」

「留三郎殿の言葉を聞いたんだ、三郎を殺すって・・・!」

心配で・・・とその言葉の先は三郎の唇に吸い取られた。

やはり自分には三郎しかいないのだな、とその時雷蔵は肌で感じた。
三郎が愛しい。
牢の中にいたときも、ずっとそう思っていた。

でもその気持ちに何と名前をつけていいのか分からなくて。
何とも思わない他人と結婚して初めて気づいた。
交わって、さらに思い知らされた。

「お前が好きだ!」

「・・・私も、愛してる!」

三郎の背中に抱きついた。
三郎も刀を鞘に納めると振りかえって雷蔵を抱きしめた。

そのときには回りは血の海で。
純情なこの愛に似合わなかったけれど。
それさえかき消してしまえそうなほど、綺麗な。

「なぁ、三郎・・・わかってもらえないかもしれないが・・・
 地下の暗闇しか知らなかった僕には、お前が唯一の光だった。
 外の世界を見たとき、お前と変わらない眩しさだと思った。
 
 しかし・・・今はお前の方がずっと輝いて見える・・・!
 僕の光はお前だ、三郎!」

「嬉しい・・・!雷蔵からそう言ってもらえるなんて・・・。
 でも、血で汚れた私が、まだ輝いて見えるかい?
 汚いことを知りつくした私でも、君に触れていいのか?」

雷蔵の腰を抱いた三郎は不安げな表情だった。
自分の返事を待ってこんな表情をしているのかと思うと、
少し身体がゾクゾクする。

「・・・もちろんだ、帰ろう、不破の家に・・・!」

三郎の胸に顔を埋める心地よさを知った今。
留三郎の元へ帰られるとは思えない。
自分と三郎の間に入れる人間などいなかったのだと。
雷蔵は頬を摺り寄せてそう思った。





食満家とは離縁という形をとったが、
留三郎からまだ文は届く。
それを雷蔵は開こうとしなかったが、
静かに自分の机の左の引き出しにしまうのだ。

「いつか閉まらなくなるぞ。」

そういっつも渋るのは三郎。

「いいじゃないか、思い出だよ。」

そういって笑うのは雷蔵。

「それに僕はもうお前のものだから・・・。」





留三郎殿、お元気ですか。
 
こちらは光に満ち溢れた生活を送っております。

僕は今、とても幸せです。

どうか貴方も、早く僕を忘れて、お幸せに・・・。





終わり!

clap-5nen.gif

*********************************************************************************

無理矢理終わらした感満載!
しかも食満報われない!汗
書いてる途中に自分でもわけわかんなくなって、
もう全部『光』ごと消そうかと思ったけど、
せっかく書いてるんだから・・・と思ってUPしました。

後で消すかもしれません。(´ω`)
PR
外に出たいと雷蔵はいう。
しかし、三郎はできることなら、
雷蔵が一生牢の中で暮らしますようにと。

心の底から願っていたのである。





「当主殿、雷蔵様は一生陽を見ることはないのですか?」

三郎は雷蔵の代わりとして不破家で生活を送り始めた頃に
すでにその質問をしていた。
当主も隠すこともないだろう、と三郎に理由を話した。

「・・・穢れた世界を知らぬまま、雷蔵を婚姻させるのだよ。
 雷蔵の相手は、もうすでに雷蔵が母の腹にいた頃から
 決まっていたのだ・・・それも、御家のための相手だ。
 馬鹿げていると、お前は笑うかもしれぬ。
 しかし、これは約束事。雷蔵には申し訳ないが
 破ることは許されぬ。」

「当主殿・・・。」

「故に、雷蔵が陽を見るのは、その相手と結ばれるときだ。
 そうなれば、お前も自由の身。気長に待っていてくれ。」

当主は三郎の頭を撫でた。
我が子の頭を撫でるように優しく。
その瞳をじっと見返しながら、三郎は思ったのだ。

雷蔵と離れたくないと。

雷蔵との距離が縮まるたびに、雷蔵に惹かれていく自分を
三郎はしっかりと感じていた。
雷蔵の穏やかな性格、優しい心。
少し寂しがりで、甘えたがり屋。

どこをとっても雷蔵は可愛かった。

その頃からすでに、三郎は雷蔵を愛していた。
たとえ同性でも、主従関係でも、傍にいられるのなら
それで幸せだと。

自分に言いきかせて、あぁ、幾年がすぎただろうか。





「三郎、お前は今年いくつになる。」

「十五にございます。」

嫌な予感がした。

「ふむ・・・来る時が来たようだな。」

やめてくれ。

「雷蔵を牢から出さねばなるまい。」

あぁ、雷蔵。
お前を他の誰かに取られてしまう。

心は張り裂けそうなほど痛かったのに、
訓練された身体からは涙は一筋も零れなかった。




地下牢には蝋燭の明かりがあるだけ。
静かな空間で三郎の声が響く。

「雷蔵、外に出れるよ。」

それを聞いて雷蔵は目を丸くした。
驚いているのか、放心しているのか。

三郎は手を伸ばして、雷蔵の手を握った。
最初は撫でるようにゆっくりと。
そして段々と力を込めていって、自分の温もりを伝える。

「本当なの、三郎・・・?」

弱々しく雷蔵が聞き返した。
表情は変わっていない。

「・・・本当さ、君は光を見れる、浴びれるんだ。」

三郎はもう片方の手も雷蔵に伸ばし、頬をなでた。
雷蔵の頬は柔らかく、そして温かかった。

「嬉しい・・・!一番綺麗な着物を着なきゃ!
 綺麗に身体を拭いて、綺麗に髪も結って!
 やっと僕、初めて外を見るのだね!」

雷蔵は微笑んだ。
瞳には歓喜の涙を浮かべて、三郎に擦り寄る。
擦り寄るといっても、頬を三郎の掌に押し付けるだけで、
それでも、雷蔵にとっての表現だった。

「・・・雷蔵、私・・・」

「何?三郎?」

「・・・何でもない。」

言えなかった。

雷蔵の喜んでいる最中にそんな水をさすようなこと。
私は君から離れなければならないなど。
言いたくなかった。

君は、何も知らなかった。
何故地下牢に入れられているかも、
何故女の着物を着ているかも。

日に一度もあたらなかったせいか、
君の肌は成長しても女の肌より白いままだ。
食事もちゃんと摂ってくれなかったから、
弱々しくはなくとも、一般男性より線の細い身体になって。

君は嫁がされるのだよ。

私と離れて暮らすのだよ。
私を忘れて暮らすのだよ。

結ばれることは、世間では喜ばしいこと。
しかし、こんな悲しいこと、私にはない。





雷蔵は目隠しをして地下牢から出た。
いきなり明るい場所に出すと、人間は目をやられてしまう。
赤い綺麗な和模様の着物を着て、綺麗に髪を整えた雷蔵に
その赤黒い血のような目隠しは不釣合い。
(しかし、欲望を駆り立てられるような、そんな。)

「三郎、僕は今何処を歩いている?」

「長い廊下だ、ピカピカの板張りの。」

「そうか、こんな感覚なのか、僕は畳と石の感覚しか知らないから。」

一緒にいたい。

三郎の願いも虚しく、今日は雷蔵の正式な婚約の日。
あと三つ先の襖の奥には相手の男が待っている。
あと二つ。
あと一つ。

「失礼致します、雷蔵様を・・・お連れ致しました。」

その言葉を聞いて雷蔵は頭を慌てて下げた。
三郎が頭を下げているのを感じたのだろう。
牢の中にいても、礼儀作法ぐらいは本で学んだ。

「おぉ・・・雷蔵!久しいな!」

「そのお声は父上!うれしゅうございます。」

当主は相手方の接待もどこへやら、
久々の我が子を思いきり抱きしめた。
雷蔵の目隠しはわずかに滲み、雷蔵もしっかりと
父の背中に腕を回す。

「さぁ、雷蔵お座り。三郎もこちらへ。」

「はい。」

当主は雷蔵を自分の隣に座らせ、雷蔵の隣に三郎を座らせた。
真ん中に雷蔵を置く形である。
相手方もそのような形で座っていた。

「三郎、雷蔵の目隠しを。」

「はい、失礼致します。」

三郎は雷蔵の前に膝を付き、雷蔵の目隠しに手をかけた。
後ろの結び目をゆっくりと解き、眩しくないように片手は
雷蔵の額に影になるように置いている。

静かに目隠しが解かれた。

「雷蔵様、ゆっくりと、お目をお開け下さい。」

「・・・・・・」

そこに広がったのは、蝋燭の明かりとは比べものにならないほどの
眩しい世界、輝く光。
それを背負って自分の前にいるのは、自分の分身。

「三郎、眩しいね・・・。」

「えぇ、じき慣れますよ。」

ニッコリ微笑む雷蔵が愛おしかった。
もうこのまま、この場所からどきたくない。
雷蔵本人の顔を相手に見せるのも腹立たしかったし、
何より雷蔵の開いたばかりの光の世界で相手を見せるのもむごいと思った。

「これそこの者、早う退かぬか。」

相手方の家従が三郎に言う。
三郎は聞こえるか聞こえないかの小さな舌打ちをして
雷蔵の前を退く。

首を動かしキョロキョロと辺りを見回す雷蔵。
絵で見た和室そのままの部屋。
それからやっと相手を見た。

「えぇと・・・こんにちは、初めまして。
 不破雷蔵と申します。」

先に挨拶をすべきだったかと内心で舌を出しながら、
雷蔵は深々と頭を下げた。
しかし、何故こんなに自分の前に畏まった人間がいるか分からない。
自分に向かい合わせの相手も固くなって緊張しているようだった。

「雷蔵、こちらは食満留三郎殿。食満家の嫡子殿だ。」

「はぁ・・・。」

気の抜けたような返事をする雷蔵に留三郎は
畳に頭をぶつける勢いで頭を下げた。

「ら、雷蔵殿、これから宜しくお願い致します。」

「は・・・?」

「お前はこの留三郎殿と夫婦になるのだよ。」

当主の言葉に目を見開く。
驚愕と、疑問と。
沸々と自分の中でわく、納得できない不満感。

「何故ですか?この着物を着ていようと僕は男です。」

「分かってくれ雷蔵。食満家と不破家が親族関係になるは
 互いの御家にとって願ってもない利益。
 この話はお前が生まれる前から決まっていたのだ。
 お前が男だからといって、婚姻はやめられない。」

「・・・・・・父上。」

心が入り乱れて、言葉に出来ない。
怒っているのか悲しんでいるのか喜んでいるのか、分からない。
御家が栄えることは喜ばしいこと。
しかしそのために自分が道具として使われることは。

とても心中は複雑で、顔を伏せ相手から背けた。

「雷蔵殿・・・。」

不安げに名前を呼ぶのは留三郎。
切れ長の瞳の凛々しい顔立ち。
この顔なら自分じゃなくとも何処ぞの良家の女子でも
娶れたろうにと雷蔵は留三郎を哀れんだ。

「・・・わかりました、留三郎殿、これから宜しくお願い致します。」

「あ・・・。」

「末永く、可愛がって頂きたく・・・。」

言葉と裏腹に、下げた面は何とも悲しげだった。
それは留三郎にはわからぬこと。
隣の三郎だけは、しっかりとその表情を見ていた。

(雷蔵・・・。)

苦しいのだね、悲しいのだね。
できることなら、私が代わってあげたい。
できることなら、この場にいる人間皆私の手で。

「では、雷蔵殿を食満家にお連れさせていただきます。」

「三郎、父上・・・。」

眉を下げて心配げな表情の雷蔵に当主は強く手を握った。
三郎は顔を伏せて膝の上で固く拳を握るだけだった。

「三郎・・・。」

悲しい、寂しげな声。

「お願いがございます、私も連れて行って下さいませ。」

三郎の口をするりと自然に滑り落ちたのは、
そんな懇願の言葉。
がばりとその場で頭を下げて、相手方の家に頼み込む。

「何故お前も連れて行かねばならんのだ。」

食満家の家従が三郎に冷たく言い放つ。
悔しさをぐっと堪えて三郎はさらに深く頭を下げた。

「私は幼い頃から忍びの技を叩き込まれております。
 雷蔵様の身代わり役として才能を買われたのもその頃です。
 私の役目が雷蔵様が無事婚姻されるまでのものだったとしても、
 お二人は立派な御家の人、常に危険が伴います。
 どうか、どうかこのまま、私を雷蔵様の身代わり役として・・・。」

必死な三郎の姿をみて、当主も一緒に頭を下げる。

「私からも頼みます、こちらの三郎は雷蔵を幼い頃から知っている
 唯一の理解者。忍びとしての実力も素晴らしいものです。
 雷蔵の身代わり役としてじゃなくとも、家の警護ぐらいは
 軽くやってのけるでしょう。」

「三郎、父上・・・!」

雷蔵がにこりと微笑む。
その柔らかい表情に目を奪われる留三郎。
食満家の家従は共に目を合わせて首を傾げあう。

「留三郎殿、僕からもお願い致します。
 どうか初めての雷蔵の我儘、聞いて下さいませ。」

留三郎の着物の裾をくいくいと控えめにひっぱりながら
雷蔵は上目遣いで留三郎に言った。
いつぞやに三郎が教えたおねだりの仕方をしっかりと
マスターしている。

「雷蔵殿がそういうなら・・・。」

頬を赤く染めながら、留三郎はそれを承諾した。

そうして雷蔵と三郎はともに食満家に入ることになった。
しかし、それが良かったことか、悪かったことか、
それを知るのはもう少し後になる。




つーづーく!

clap-5nen.gif

**************************************************************************

ゴールデンウィークにバリバリ更新したかった・・・・゚・(ノД`;)・゚・
バイト無事終えました!今までありがとうございました。
明日仕事着を返してきます。本当にお世話になりました。
「雷蔵様・・・」

深い深い地下牢の岩壁に反響するは
同じ顔の男の声。

「三郎なの?」

「えぇ、私です。」

暗闇には一つ、蝋燭に火が灯るだけ。
ぼんやりとした相手を柵越しから手を伸ばして捜す。

「寂しかったよ・・・早くここへ来て・・・。」

「はい、ただいま・・・。」





鉢屋三郎は代々優秀な忍びの家系に生まれた。
三郎自身の才能も我が身にその血を宿していることを
しっかりと証明していた。
特に変装の腕は素晴らしく、三郎の右に出るものはいなかった。

その才能を買われて不破家に雇われたのは6つの時。

不破の当主は幼くも忍びであった三郎にいった。
傍らには三郎と同じぐらいの大きさの人形を置いて。

「この子に化けよ。そしてこの不破家で暮らすのだ。
 金ならいくらでも出してやる、お前の命、買い受ける。」

「当主殿、いくら私とて、息をせぬ人形には化けられませぬ。」

「・・・すまぬな、いつものくせで、慣れとは怖いものだ。
 これは私の可愛い我が子を模した人形。
 片時も私の傍を離れさせたことはない。」

悲しい目をして当主は頭を下げた。
三郎は当主が何を言っているのか分からなかった。
我が子は死んだのか?
死んだ子を私に演じさせようというのか?

「お前には、雷蔵を見せてやらねばなるまい。
 ・・・私について来い、雷蔵に会わせてやろう。」

「有難き幸せ。」

三郎は当主の後に続いて隠し扉の奥へ進んでいく。
そこは暗く、春なのにひんやりと肌寒く、どこかじっとり湿っていた。
長い通路を抜け、石段を降りると、そこは頑丈な柵の牢獄。
そこから小さく光が見える。

「・・・雷蔵、私だよ。」

「父上・・・父上ですね・・・っ」

当主の声に反応を返した声は自分と同じくらいの幼い声だった。
心なしか涙が混ざった寂しげな声。
当主は足早に牢の前に行くと、跪き、中の人物と視線を合わせた。

「おぉ・・・っ私の可愛い息子・・・!大きくなって・・・!」

「父上、父上ぇ!寂しかったです、
 父上が最後に僕に会ってくださったのは
 寒い寒い、2年前の冬でした・・・!!
 僕は今でもその日を覚えております・・・!!」

小さな手がすっとのびて当主の両頬を撫でる。
当主もその手をとって幾度も幾度も口付けをした。
他人の三郎から見てこの二人は決して離れたがっているわけではないと
一瞬でわかるほどに愛情に満ちた光景で、郷の父母を少し思い出した。
水を差して悪いが、確認のため、聞かねばなるまい。

「当主殿、このお方が・・・。」

「あぁ、そうだ。雷蔵・・・私のただ一人の愛息子・・・。」

「父上・・・この子は・・・?」

夜目がきいてきた三郎の視界に映るは大きな丸い目をした幼子。
髪は結わず、柔らかいのかふわふわと肩に遊ばせたまま、
女子のようなべべを着ている。

「雷蔵、これは三郎という。お前の影武者になってくれる子だ。
 上で、お前の姿がなければ怪しまれてしまうだろう?
 しかし、お前がいてもお前の命が危ない。
 そこで、三郎を雇ったんだよ。」

「・・・父上、雷蔵は外に出てみたいです。」

「・・・許しておくれ、可愛い雷蔵。」

雷蔵は三郎を涙の溜まった目でキッと睨んだ。
おそらく自分の代わりに外で生きる三郎が羨ましくも
妬ましかったのだろう。
それが分かっていたから、三郎は特に頭にもこなかったし、
むしろ牢の中で暮らす雷蔵に哀れみと申し訳なさを感じた。

この子に何か自分がしてやれることは無いだろうか。

忍びになるべくして育てられた三郎に、初めて誰かのことを
考え、思いやるという気持ちが湧いた瞬間だった。
そんな感情は生まれたときから持ち合わせていないと思っていたのに。

「雷蔵様、お寂しいのですね。」

「そうだよ、僕いつもここで一人ぼっちなの。
 君はいいね、外の世界を見れるんだもの。」

「えぇ・・・でも、雷蔵様。
 私が貴方様の目になりましょう、耳になりましょう。
 私に時間がある限り、雷蔵様の元を訪れます。
 そうすれば、貴方は寂しくない。」

雷蔵は大きな目をさらに大きく開いて、三郎の素顔をじっと見た。
三郎の言葉に当主も嬉しそうに口元を緩ます。

「本当?三郎、僕の目や耳になってくれるの?」

「えぇ、貴方様が望むのなら手にも足にもなりましょう。」

「じゃぁ、友達になってくれる?」

首を傾げながら訊ねる雷蔵に、言葉が詰まった。
友達になっても構わない、しかし、雷蔵と自分はいわば主従の関係。
なんと答えていいか分からず、当主の顔を見る。

静かに微笑みながら頷いた。

「・・・もちろんです、雷蔵様、私でよければ、友にしてくださいませ。」

「うわぁ・・・!やったぁ!父上、雷蔵にも友達ができたよ!
 外では一緒に駆け回れないけど、三郎、たくさんここに来てね!
 たくさん僕に外のことを教えてね、約束だよ!」

花が綻ぶような可愛らしい笑顔に、つられて三郎も笑顔を向ける。
牢の中からのびる小さな手の小指を己の小指と絡めて指きりをした。
全く日に当たらないせいか、雷蔵の手は雪のように白かった。






「雷蔵様。」

「三郎、あぁ、三郎・・・。」

下に敷かれた畳を膝で這い歩き、三郎の元へ近寄っていく。
三郎が持っていた蝋燭に火をつける。
二人の間でボウ・・・と燃えだした火はいつも以上に輝いて見えた。

「三郎、いつもごめんね、迷惑だよね・・・。
 牢は暗いし、湿っぽいし、石段は膝に悪いだろうし・・・。」

「・・・何をおっしゃいます雷蔵様。私は遠い昔、雷蔵様に
 全てを捧げると誓った身でございます。
 その私が、雷蔵様のご希望を煩わしいなど思うはずがありません。」

「・・・いいよ、敬語もやめて。この台詞も言い飽きたよ・・・。」

寂しそうな悲しそうな目をする雷蔵に、
三郎は胸が締め付けられる思いだった。

ふと、部屋の中を手に持っている蝋燭で照らす。
立派な魚の煮物が少々突付かれただけで、
白飯も味噌汁も漬物も何もかも残されている。

「雷蔵・・・、食事はちゃんと摂ってくれ、またそんなに残して・・・。」

思わず眉を寄せて雷蔵に言う。
雷蔵はしょんぼりと俯いて三郎に言い訳を。

「・・・真っ暗では、何を食べても美味しくないから・・・。
 それに、最近食欲がわかなくて・・・。」

雷蔵の気持ちが痛いほどわかる。
三郎はそれ以上は何も言わなかった。
かわりに、雷蔵が希望していた物を差し出す。

「ほら雷蔵、本だよ。それに花も。」

雷蔵はそれを見て嬉しそうに笑った。
牢から手を伸ばして三郎からそれを受け取る。

「ありがとう三郎。嬉しい。」

「雷蔵は本が好きだものな。他にほしい物があったら
 遠慮なくいってくれ、持ってくるよ。」

それから二人は話し込む。
時間を忘れて、二人の世界へ浸るのだ。

しかし、それを融け合せないようにと隔てるのは
柵の牢獄、鉄の鍵。

「三郎、歌って、いつもの歌。」

「お安い御用だ。」

三郎の震える喉から出てくるのは美しい歌声。
それを聞くと雷蔵の心はいつも穏やかになって、
そして何もかもを浄化してくれるような気がした。

伸ばした手をしっかり握ってくれる手が、
雷蔵にとって全てだった。

(いいや、全てだなんて、全て以上の、先の先。)

「・・・外に出てみたい・・・。」

生まれて一度も明るい世界を見ることはなかった。
恋焦がれてやまない、外の光。

静かに涙を溢す雷蔵に、
三郎は甘い愛の歌を歌い続けるだけだった。





つづく!

clap-5nen.gif

*****************************************************************************

長くなりそうなので、分けます!
3回になるか、2回になるか・・・。(´ω`)

↓↓ご協力お願いします!

現代版の鉢雷です。
しかも、鉢屋さんウザーい!(可愛いウザさじゃないです)
そんなのは耐えられん!という方はおやめになって~!

****************************************************************************

夕日の差しこむ化学実験室。
どこか不安げに廊下を歩く男子生徒が一人。
ドアの前に立つと、気配で分かったようで
部屋の中にいる人物が呼ぶ。

「入っておいで。」

ドアに手をかけて俯き、胸いっぱいに空気を一気に吸い込んで
ただ真っ白の天井を仰いだ。
腹をくくってゆっくりドアを開ける。

「失礼します・・・。」




高校三年生になる不破雷蔵は、誰にも好かれる良い子であった。
教師達の評判ももちろんよく、成績も優秀。
それを鼻にかけることもなく、学習内容が理解できずに困っている
生徒にはしっかり丁寧に教えてくれる。

「雷蔵は優しいなぁ。」

その言葉にいつも頬を染めてはにかんで笑う。

「そんなことないよ。」

そんな謙虚な人柄も人に好まれやすかったのかもしれない。
雷蔵は自分をとりまく全ての人々に愛されていた。
大切にされていた。

そんなある日、化学の専門教師が倒れた。
脳梗塞で、しばらくの入院が必要になったそうだった。
代わりの教師がくるとのことで、皆どこかそわそわと
その教師を待つ。

もともとこの高校は質の良い教師を選ぶことで有名であった。
倒れた教師もなかなかの腕であったし、周りの教師だってそうである。
雷蔵は自分の知らないことを学ぶことに楽しさを感じていたので
それをきっちり教えてくれる教師を尊敬していた。

その教師が倒れれば心配になるのは当たり前で、
それでも立ち止まっていられない自分の身を少し、悔しく思った。

「オイッ!代理の化学教師の顔を見たか?!」

化学教科係のクラスメイトがプリントを両手いっぱいに抱えて、
教室のドアをピシャーンッと乱暴に開ける。
何事かと教室にいた生徒皆そちらに注目し、
息を切らした口からその続きが出るのを待つ。

「・・・雷蔵の生き写しだ・・・!」

視線は一気に雷蔵に注がれ、ザワッと教室がざわつき始める。
もう少しでその本人がくる。
初授業でこの状態はマズイと雷蔵は立ち上がって

「ね、皆落ち着こうよ、もうすぐ先生も来るしさ、その時分かるよ。」

と呼びかけた。
その言葉を聞いて、そうだな・・・と一度皆席につき、
代理教師を待った。

ガラリと開く前のドア。
入ってきたのは確かに雷蔵の生き写しの男。

ワッ!!と教室が爆発した。
いや、皆の緊張と好奇の気持ちが破裂したというか、
右から左から前から後ろから、雷蔵に手が伸びて

「オイ、見ろよ雷蔵!お前そのままだ!」

「お前生き別れの兄弟でもいたのか?!」

そんなことばかり聞いてくる。
雷蔵本人も驚いていた。

母からは何も聞いていないし、何よりこの世に自分と全く同じ
姿の人間がいるとも思っていなかった。
呆然とする雷蔵を見て、にや、と笑ってみせた代理教師。

歳はいくつぐらいだろうか、もしかして同じじゃないだろうか。

雷蔵は嫌に高鳴る胸をぎゅっと押さえて背中に汗をかく。
周りは興奮しているが、自分はそれどころか恐ろしささえ感じている。
これがもしドッペルゲンガーというものなら自分は死んでしまう。

「静かに、出席をとる。」

いたって冷静に手持ちの自分の出席簿を開く。
淡々と生徒の名前を呼んでいき、それに返事を返す。

「不破雷蔵・・・」

「は、い」

見つめられる。
その目が少し、恐い。
こんな気持ちになったのは初めてだった。
そんな雷蔵の気持ちを知ってか知らずか、
その代理教師は教壇をボールペンの尻で小突きながら
ニィッと笑う。

「こんなに私とそっくりな人間がいるとはなぁ。
 流石に驚いたよ、雷蔵。」

「は、ぁ・・・僕もです。」

控えめに微笑む雷蔵に満足したのか、
あの虚ろでいて鋭い瞳をやめてくれた。

「君は優等生だと聞いたよ、楽しみだ。」

「そんな、期待しないでください。
 がっかりなさる顔はできるだけ見たくありません。」

代理教師は雷蔵と軽く話して、出席の続きを始める。
背中をツンッと突付く指に応え、身体を後ろに傾ける。

(雷蔵、いきなり気に入られてんな。)

(僕もわかんないよ、本当にいきなりなんだもん。)

コショコショと小さく言い合いながら、出席を取り終わった
教師は黒板に向き合い、白チョークを手に取った。

「まず自己紹介をしておこうか。私は鉢屋三郎という。
 一応博士号も持っているので、わからないところは
 どんどん聞いてくれて構わないからな。」

大きく書かれた名前をボーと眺める。
頭の中の記憶を探ってもそんな人はいない。
雷蔵は首を傾げる。

「君たちのことは授業をしていく間に覚えようと思う。
 そっちの方が私は覚えやすいんだ。
 当てられた問題はしっかり答えてくれよー。」

そうして代理教師こと三郎は生徒達に笑われながら授業を始めた。
教室の中で一人、雷蔵だけがまだ納得できずに
教科書もノートも閉じたままだった。




三郎の授業はわかりやすかった。
頭のよさと人に教えられる器用さは別物なのを
雷蔵はすでにわかっていたので、
三郎がかなりの腕を持っていてそれを認められたのだと思った。

それでも容赦なく生徒に当てていくので
それさえなければ完璧な先生だと皆思っていたに違いない。

雷蔵も最初感じたぞっとするような感覚もなくなり、
三郎をいい先生とそれだけで片付けていた。
しかし、それをあっという間に変えてしまう出来事が起る。




いつもの授業のはずだった。

「はい、久々知正解。んじゃ、次の問題は~・・・」

(あ、やだな、あれ特別難しいや、わかんない。)

雷蔵は眉間にシワを寄せた。
物質の性質と構造体を分かっていないと分からない
問題など、普通の生徒に分かるわけがない。
きっとこれは先生自身が解くのだろうと、油断していた。

「雷蔵、いってみようか。」

「え!」

指名されて思わず声が出る。
どう考えてもわからない。

「あの・・・わかりません。」

「え?嘘だろ?雷蔵が分からないって・・・
 あ、問題が悪かった?これならどう?」

そう言って三郎が黒板に書く問題の内容は
全然難易度が下がっていないものばかりで。
雷蔵はずっと首を横に振り続けるだけだった。

「・・・雷蔵、今日は残って私と補講ね。」

「は、はい・・・。」

シュンとうなだれて返事をする。
三郎からつかれたため息が少し痛かった。



放課後、雷蔵は言われたとおりに教室にポツンと残っていた。
一人の教室の広さに心細さが強くなる。
ガラ・・・と開けられたドアからは自分と同じ顔が現れる。

「偉いな、言いつけどおりに残ってたか。
 たいていの生徒は忘れたフリをして帰ってしまうんだがな。」

教科書でポンポンと肩を叩きながら、ニッと笑って
雷蔵の席の隣に座る。

「・・・どうしてもあの問題はわからなかったから・・・
 僕もまだまだだってことですよ。」

頭を掻きながら困ったように笑う雷蔵。

「あれはいいよ別に。
 大学の化学専門の問題だし。」

「え・・・?」

「雷蔵と二人きりになりたかっただけ。
 よかった、雷蔵が優等生で。残ってくれていた。」

「あの、何の・・・」

言葉の途中でぎゅっと抱きすくめられた。
いきなりのことに声が出なくなる。

「雷蔵・・・好きだよ・・・私だけのものにしたい・・・。」

「っ・・・っ・・・!」

掴まれた手首を振り払うこともできぬまま、
雷蔵は三郎から顔を背けるのだけで精一杯だった。

まさか教師にこんなことをされようとは
思ってもみなかった。
突然すぎるし、異常ささえ感じる。

「やめてください・・・!」

やっと絞り出した声は震えていた。
それに気づいた三郎は雷蔵の耳を食む。

「やっ・・・!」

「可愛い・・・、愛してるよ。」

耳元で囁かれる言葉が鼓膜を震わすたびに
身体も跳ねる、ピクリと小さく。
手際よくネクタイを緩めようとしてくる三郎に
雷蔵は必死で抵抗する。

「嫌ですってば、冗談が過ぎます・・・!」

「冗談じゃないよ、君の真面目に授業を受ける姿だとか
 時折見せる笑顔だとか、全部が私を捕らえて放さないんだ。
 ・・・他人と身体の関係を持ったことはないのかな?
 私が教えてあげよう、特別授業だ。」

「え・・・?!いゃ・・・」

その言葉の先は三郎に吸い取られる。
一瞬で奪われてしまった。
初めての唇。

「っ!」

挿し込まれた舌に噛み付く。
じわりと鉄の味が口内に広がった。

「バカッ!お前なんか最低だ!」

バッと自分のカバンを抱えて教室を出て行った。
雷蔵の走り行く後ろ姿をじっと三郎は眺めながら
ペッと血を吐き出した。
口元は弧を描いている。




それからというもの三郎は何かと雷蔵に補講を言い渡した。
雷蔵もそうならないように頑張って予習をしてくるものの、
相手は専門教師である。
その場で問題を作ることもたやすい。

呼び出されるたびに、先に進む三郎の行為に
雷蔵は仕方なく従うしかなかった。
逆らっては卒業さえ危うくされかねない。
それだけは避けたいと思った。

今日も三郎に呼び出されている。
授業中に竹谷とやり取りしていた手紙が三郎に見つかったのだ。

『優等生の雷蔵がこんなことを・・・。
 ダメだな、この手紙は預かる。放課後化学実験室に来なさい。』

わざわざ雷蔵の手に己の手を重ねるところらへんが
おかしいのだが、それを誰も口には出さなかった。

黒カーテンで包まれた教室は暗く、
蛍光灯は一つつけられただけで、
その下に顔にぼんやりと影を落とす
雷蔵を呼び出した張本人がいた。

「先生・・・。」

「いい子だ・・・よく来たな。今日は、全部、だな?」

「・・・・・・」

雷蔵は目を伏せ眉を寄せながらネクタイをはずした。
ワイシャツのボタンもプツ、プツとはずしていく。
その様子を三郎は嬉々とした表情で眺めている。

雷蔵がワイシャツの前を開け、足をさらしたところで
その場にしゃがみこんでしまう。

「・・・お願い、です、これ以上は・・・」

三郎を見上げながら雷蔵が懇願する。
三郎は優しく微笑みながら雷蔵に近づき、
手をとって立ち上がらせる。
自由な片手でしっかりと前を握って隠そうとする雷蔵を
それでも三郎は許していた。

「雷蔵は単位いらないんだぁ・・・」

「卑、怯者・・・っ!」

「雷蔵って本当に鈍感。」

本当はこの私との関係を楽しんでいるだろう?
本気で嫌なら私のことを学校なり親なりに言いつければいいのに。
何故君はいつもここに来る?
何故君はいつも嫌がりながらも言いなりになる?

「雷蔵も私が好きなんだよ。」

「そんなわけ、っ!」

「いいさ、全部私のせいにしてしまえばいい。
 教師という権力を振りかざして雷蔵に無理を強いる。
 君はそれに仕方なく従う、そうでなければ納得しないんだろう?」

「・・・・・・」

「それでも私が雷蔵を欲しているのは変わりないから、
 私はそれでも構わないよ。さぁ・・・足を開いてごらん。
 いつものように気持ちよくしてあげよう・・・。」

薄暗い静かな化学実験室の机の上。
黒い机と相反するように白い胸が寝そべっている。
足の付け根に顔を埋める男が愛しいなどと、
そんな気持ちは持ち合わせていない。

そう思っていた。

今響くのはただ、卑しい濡れ音のみ。


乱れた吐息まであとわずか。




clap-5nen.gif

*********************************************************************************

失敗したぁー。
やっぱり日頃からコツコツ書かないと
腕が鈍りますー・゚・(ノД`;)・゚・
意味プーな駄作になってしまった。
教師と生徒のけしからん関係を鉢雷でと思ったんですが・・・。
意味プーな(ry

アンケート宜しくお願いしますーv


チリンと首の鈴を鳴らしながら、上等な服を着た大家で飼われる猫がいました。
その猫の名前は三郎と言います。
三郎はなに不自由のない生活を送っていました。

「あぁ、とてもヒマ。ご主人、私は外へ出てくるよ。夕方の飯時には戻ろう。」

そういって縁側でマリで遊んでいた三郎は、あくび一つのこして庭の塀を飛び越えていきました。
外の世界など、今まで興味のなかった三郎は、ただぶらぶらと歩いて、町を抜けて、村を抜けて、原っぱに出ました。

「おや、こんなところがあったのか。」

その原っぱに、ガサガサと動くものがあります。

「何奴?」

三郎が近づいていくと、それはひょっこり顔をあげました。

「僕の秘密基地だったのに、君もここを見つけちゃったんだね。」

三郎と違って、ボロを着た、それでもどこか綺麗な猫が笑って言いました。
三郎は、その笑顔を見て、一瞬で、その猫の虜になってしまいました。

「お前、名前は?」

「雷蔵。君は?」

「私は大家に飼われる三郎だ。」

「そう。」

町の猫なら、大家の猫と聞いてひれ伏すのに、この猫はたったこれだけでした。
三郎は何だか面白くなくて、一生懸命その猫の気を引こうとしました。

「見ろ、この服、南蛮の高級生地なんだぞ。首の鈴だってホラ、一級品だ。」

「そう、僕の服はボロだけど、とても着心地がいいよ。鈴なんてくるしくないの?」

雷蔵は三郎のことを特に気にもとめず、また原っぱに寝転んで、日向ぼっこを始めました。
三郎は何だか無視されているようで、あまり面白くありません。

「私の食事はいつも高級魚で、寝床もふわふわの布団の上だ。どうだい、すごいだろう。」

「君はしらないの?お魚屋さんが気まぐれにくれる魚の味、木漏れ日の中で眠る心地よさ。」

雷蔵は瞳をトロリトロリとうつろにしながら、三郎に言います。
三郎は怒って、雷蔵の上に覆いかぶさりました。

「それに私は強いんだぞ!!力だってこんなにあるんだっ!!」

「・・・僕の着物をめくってご覧よ。」

「・・・?」

スルリと雷蔵の着物の間を広げると、三郎は驚き、目を見開きました。
そこには生々しい傷跡や古いけれど大きな傷跡がいくつもあったのです。

「これは・・・。」

「君は大家に飼われる猫だといったね、なら知らないだろう。外の世界の厳しさを。」

そうなのです、三郎は何も知らないのです。
この猫、雷蔵が好きになっても、雷蔵と同じ視線からは何一つ見れないのです。
雷蔵の言葉に、がっくりと面を下げた三郎を、雷蔵が撫でて慰めます。

「君は大家の猫だ。でも猫は猫だろう?僕と何も変わりはない。ならわかるさ、きっと。」

雷蔵の言葉が三郎に突き刺さりました。

確かに三郎も猫です。
しかし、着物を脱いでもどうでしょう?
雷蔵のように、戦った傷跡や、人間につけられた傷跡など、あるでしょうか?
雷蔵のように、すっきりとした首元で、木漏れ日を浴びたことがあったでしょうか?

「私、きっと分からない。同じ猫でも違うんだ・・・。」

ブンブンと首を横に振る三郎に、雷蔵は顔を上げさせました。

「とりあえず、ここに寝転んでご覧。僕のように、だらりと、原っぱの上に。」

言われるままに三郎は原っぱの上に寝転んで、すると雷蔵が手を繋いできて、ドクンと心臓が飛び跳ねました。

「目を閉じて・・・耳をすませてご覧。ホラ・・・。」

三郎は目を閉じて、耳をすませます。

ササァ・・・サササァ―・・・

草をゆっくり抜けて、自分の顔を撫でていくそよ風。

ポカポカ・・・チチチ・・・チチ・・・

自分の全身を心地よく包んでくれる日差しと、空を自由に飛びまわる鳥の声。
それだけじゃなく、虫が原っぱで飛び跳ねる音や、花の甘い香りまで、三郎は感じることができました。

「気持ちがいいね・・・とても。」

もうずっと、座布団の上、畳の上の感覚しかなかった身体に、草のクッションが新鮮に感じます。
雷蔵の手が温かくて、優しくて、トロリトロリと夢心地です。

「いいものだろう?風を感じる、お日様の光を感じる・・・。確かに人間や野良とのケンカはきついけど、だからこそふとした優しさがとても嬉しく、愛しく思うんだよ・・・。」

あぁ、あぁ、この猫は、こんなにも綺麗だ。

三郎は太陽の光に毛を金に染める雷蔵を見て、改めてそう思いました。
今まで抱いたどんなメス猫より子分にしたどんなオス猫より、この猫は美しいと。
町の猫など、飼い猫など、たかが知れていたのだと思いました。

「私は幸せを取り違えていたのだね、私の考えていた幸せなど、ちっぽけなものだったのだね。」

雷蔵は何も言いませんでした。
ただ三郎に顔を向けて、にっこり穏やかに笑うだけでした。

「・・・私とともに生きてくれるかい?・・・私に新しい世界を教えてくれるかい・・・?」

やっぱり雷蔵は何も言いませんでしたが、つないだ掌にもっと力が入ったことを答えとしました。
三郎は嬉しくて、嬉しくて、涙が出そうになりました。
一番の幸せは、どんなものか今わかったのです。

(ありのままを感じることも幸せだ、でも、愛しい人と一緒に居ることが一番の幸せなんだね。)

その想いは飲み込んで、三郎は

「雷蔵。」

とただ一言、初めて愛しい猫の名前を呼びました。
緑の香りが心を静めて、二人は一緒に眠りました。
幸せの夢を見ながら。



そして大家に飼われていた猫は、二度とその家に帰ってくることはなかったといいます―・・・。



*おわり*


[1] [2]  

Category
New Artical
 
今年 (02/03)
New Comment
 
by  まめすき 08/11
by  ぷっちょ 06/30
by  ほゆ 06/04
by  Tizen009 05/05
by  りこ 03/30

[Login]  [Write]  [RSS]


カレンダー
06 2024/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31
リンク 
最新CM
[08/11 まめすき]
[06/30 ぷっちょ]
[06/04 ほゆ]
[05/05 Tizen009]
[03/30 りこ]
最新TB
プロフィール
HN:
モユコ
性別:
女性
職業:
学生★☆
趣味:
妄想(´∀`)
自己紹介:
めんどくさがり、大雑把です・・・σ(´∀`)
でもできるだけ閲覧者の方々には敬意をはらいたいと
思ってます。よろしくお願いしますvv
バーコード
ブログ内検索
ウチのサイトのお値段は?!

忍者ブログ [PR]
 Designed   by chocolate巧
忍者ブログ [PR]
 picture   by モユコ